
いっしょにいるときに通じ合う何かがあっても、それは口には決して出さなくて。
壊れてしまいそうな微妙なバランスで支えてる何かを、そうやって延々とつなぎ止めているような。
ずれたレールを走り続けていることに気付いてしまっているけれど
ただひたすらに話題を逸らしあって、それをはぐらかしているような。
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「相も変わらずサッカーの話ばっかりなんやなぁ」
韓国との親善試合の終わった後、久しぶりに顔を合わせた中学時代のメンバー。
アメリカから帰ってきた小島と、プロ入り2年目を迎えた元キャプテンの会話を耳にして、色気も素っ気もないわ、と呆れるシゲに、やはり久しぶりに帰ってきた風祭が苦笑する。
「仕方ないよ。このメンバーなんだし」
「まぁな」
まああの二人が他のこと話してる姿など想像もつかない。
「でも、ホント、サッカー以外に話題ねぇのかって感じだよな。二人ともモテるくせによ」
「お似合いっていうか、似たもの同士っていうか」
だから気を利かせて二人きりにしてやってんだけど、と高井と森長が笑いながら言う。
結局お似合いってことだろーと、全員が笑った。
「……そうだね。あいかわらず仲いいんだよね。あの二人」
笑いを納めた風祭がふと、目を細めあのころを振り返るように遠くを見た。
「僕ね、3年で同じクラスになったでしょ。だから二人が話してるのよく聞いてたんだ。
いつも、サッカーの話ばっかりで。
僕もサッカー好きだけど、水野くんと小島さんのはなんだかレベルが違う、みたいな感じだったよ。
国際試合とかJリーグとかの選手の技術とか戦術とかトレーニング方法とか、すごく詳しくて、ああ二人ともホントにサッカー好きなんだなぁって、だからこんなにいろいろ研究とかして練習メニューにいかしたりして、同じ中学生なのにすごいなぁって思った」
遠い昔、憧憬と微かな嫉妬の対象であった二人の姿を、離れたところで笑い合う彼らの姿に重ねる。
「せやな。俺らは将来のこととかあんま実感なかったけど、あの二人はなんやもうずっと先のこと見て今の自分らみたいになるの、あたりまえみたいなとこあったなぁ」
「…………あのね、僕、昔思ったことあるんだ……」
ふと、思いついたように、今なら言ってもいいかな、と前置きして風祭は口を開く。
「二人ともとても仲がよくて……それは当たり前なんだけど、あの二人、話してることってサッカーのことばっかりだったんだ……それってすごいことだけど……なんだかおかしいなぁって…………」
「おかしいて?」
「だって他のこと全然話さないんだよ。宿題のこととか昨日見たテレビのこととか……サッカー以外のことはなんにも」
「なんにも?」
「うん」
今も昔も二人の話題は同じ。不自然なほど変わらない二人。
「小島さんも水野くんも、お昼に僕らといっしょにご飯食べてるときなんかはごく普通に話もしてて、試験勉強のこととか、お休みの日の過ごし方とかよく話したよね? でも二人きりの時って、あんまりそんな話はしてなくって、話の途中でお昼の休みが終わっちゃっても、教室に帰って二人になったら全然話題が切り替わっちゃう、みたいな感じなんだ。だから二人ってひょっとして仲悪いのかなぁなんて心配したりして……」
「でもね、やっぱり違うなって思ったんだ。だって二人とも二人でいるときはすごく楽しそうだったし、大好きなサッカーの話ばっかりずっとできててとても幸せって感じがして、僕もそういうのわかるなぁって思うし、だから、二人はとっても理想的な関係なんだなって思ってたんだ。でも……」
「なんかひっかかるもんがあったわけやな。お前のカンには」
「うん。だけどね。ある時、ふと……思ったときがあったんだ。……もしかして水野くんも小島さんも、ホントはもっと他に、ホントにしたい話があるんじゃないのかなぁって…………」
「二人がしてるのはサッカーの話だけど、でももしかしたら、全然違う意味も、その中には混じってて、サッカーの話をしながらホントは別の意味のこと話してたのかもしれないなぁって……」
僕の気のせいならいいんだけどね、と風祭は笑う。
そやな、と軽くいなして、振り返れば、相も変わらず同じ話題を繰り返す二人の姿があった。
とても楽しそうに。同じ何かを共有してるみたいに。
とても幸せそうに。二人にだけ通じ合う暗号みたいに。
まるで、他の話題なんかないみたいに。
サッカーの、話ばかり。
…intermission…
<<あとがき>>
元ネタは藤田あつこさんの煌如星シリーズの1作。肝心の本がないのでタイトルがわからないのですが…。読んだときはめっちゃせつなかったです。なんせ当事者同士が亡くなった後の会話だったから。
しかも当事者の片割れがそれまでお調子者の遊び人みたいに書かれてたからなおさら。
どなたか原作のタイトルと収録コミックスを知ってる方がいたら教えて下さい。