例えるならタロットでは「フール」。
すべてのはじまり。あるのは自由な夢と勇気だけ。
[遊戯王//舞×城之内]
久しぶりに会う男は、相変わらず少年としか言えない笑顔。
おお久しぶり、どしたんだよこんなとこでと大仰に表情を変えてそれでも会えてうれしいと裏のない笑顔を向けてくる。
この女殺し、と心の中で思った。もっともそう思うのは自分だけだろうが。
それでも気まぐれを装って顔を見に来てしまうのは、会わない間に変わってしまうことを恐れているからかもしれない。
この年頃の成長は早いと自分の体験から知っている。
あっという間に置き去りにして行ってしまうのだから。勝手なんだから、男なんて。
「アンタも来年は卒業よね。将来どうするかとかもう決めてんの?」
さりげなく探りを入れれば、相手はきょとんと目を丸くした。
そんなこと考えてもいないと、いや聞かれるとも思っていなかったとそれは口ほどにも語る瞳で。
「ん―――そうだなぁ・・・まあ進学はしねぇと思うけど。この頭だしな」
「あら分かってんじゃないの」
「うるせぇ」
なんとはなしに入った喫茶店で、アイスコーヒーのストロ―を加えたまま男はふと天を仰ぐ。
「まあそうだなぁ・・・なんとかなんじゃねぇの。バイト先で何軒か卒業したら雇ってやるって言ってくれてるとこあるし」
「そう」
なんだかんだで人には好かれるタイプだし、いざとなったら頼りになるし、黙ってれば二枚目で通るから客商売には向いているのだろう。それでもこんな田舎町でちっちゃくまとまってしまうような人生を送るつもりなのかと少しがっかりする。贔屓目と言われてももう少しスケールの大きい場所の方が似合っているんじゃないかと思うのだ。
『ねえ、それならさ。あたしといっしょに組んでみない?』
そんなふうに誘えたらと思い、けれどそれも似合わない気がしてやっぱり口には出さない。
自分のような生き方は、好き勝手しているように見えてホントは違う。風任せの気まぐれだけで行く場所を決められるほど楽な人生ではなかった。どんなにくやしくても腹立たしくてもしかたがないと諦めたことは一つや二つではないのだ。
「でもよ、まあいつかは自分でやりたいんだよな、なんか」
彼女の沈みかけた心をよそに視線を宙に仰がせてああでもないこうでもないと考えていた男が、急にひたりと視線を彼女に据えて言った。
あやふやな言葉とは裏腹に、その言葉には力強さがあった。
希望や夢や可能性やそういうものを全てつめこんだ「なんか」。
それが何かと問うても今は無駄だと知っている。
漠然とした荒野で地平線の果てに何かあると信じているその瞳。
彼はそこから旅立つのだ。彼女がかつてひとりで立ったのと同じ場所から、彼女とは違う未来に向かって。
「ふうん、そうなんだ」
「まあ、全然あてのない話じゃあるけどよ。そんときゃ声かけるから」
「え」
さりげなく誘われた一言にどきりとしたが、相手は相変わらず裏のない笑顔だ。
「なんかできたら協力してくれよ。お返しは出世払いになると思うけどな」
ただの一歩も仲間の域を出ない頼み事に、少し落胆しながらもそれでも「うんいいわよ」と笑いながら返事を返した。
てはじめにここの払いは彼女持ち。そういうことになるのだろう。
来年の春、敷かれたレールもおしきせのルールもない人生のはじまりを迎える彼に幸多からんことを。
そしていつまでもその希望が失われませんように。それを見届けることが当面の彼女のライフワークだった。