たとえば鏡越しに盗み見るような。
 交差しない視線の先にいる人。

 確かによく目立つ男だった。
 日差しに映える脱色された髪。
 フィールドを駆け抜けるその姿は部の中で飛び抜けてうまかったし、ゴール前の競り合いでも大概勝者で、その時に見せる瞳の輝きは男にしか持ち得ない挑戦的な活力に満ち、彼目当ての有象無象がむやみに騒ぐのがよくわかる。
 それでも。
 それでも、彼女の生活は、他に見るべきものに満ちていて、その中でなによりのいちばんは憧憬と嫉妬の対象である黒髪の少女だったし、向こうはそうと知りながらもそしらぬ顔だったから余計に他のものが目に入らなくなるくらいいつも見ていた。
 だから、彼がいやでも目に映るようになったのは、多分、彼女と同じものを、彼が見ていると気づいたせいだったと思う。
 ちくり、と胸が痛んだ。
 どちらに対するものなのかは分からぬままに、彼女は苛立つ感情の波を、洗い立てのタオルの籠にぶつけた。

 

 どこがいいのかと彼は思う。
 確かに不快ではない。異性にしてはマシな方だと思う。
 彼が彼女を認める唯一の点はサッカーであり、それにかける情熱も技量もおそらく部の中はおろか、都選抜に出してもそこそこのレベルまで行くのではないかと思う。そういう意味では期待もしたし、先々面白いことをしでかしそうだという興趣もあった。
 友情は感じても、それ以上はない。だが、薄っぺらい恋の相手よりは友情の方がずっとマシだ。
 そして友情というならばもっと大事な存在はいくらもいた。レベル1は彼と同等レベルの技量を持つ司令塔と、期待値では彼女以上の9番。この学校以外というなら他にも。
 友情ランクレベル2。部活仲間。
 彼にとって小島有希とはそんな存在だった。

 

 よそ見をしていてささいな擦り傷を負った。
 ゴール前は最前線の激戦区だからこんな傷は珍しくない。
 まして彼にはそんな無茶を楽しむ傾向が強いので、擦り傷切り傷の類はしょっちゅうだ。
 救急箱をかかえた小島有希が呆れながらも手当にかかる。

「サンキューな、小島ちゃんvv」

「ぎゃー!!! 離しなさいよ、このバカ!!」

 
 ふざけて抱きつくと、周囲にわずかな感情の波が逆立つのがわかる。
 軽い嫉妬混じりの微妙な困惑顔、誤解を怖れる焦り、苦笑、とまどい、悲鳴混じりの落胆、、、。
 わざと波風を立ててみると相手の本音がよくわかる。
 それが彼には面白い。
 たちの悪い遊びだと自分でもわかっていた。
 わけても刺すような視線で自分を見るこの感情の鋭さはどうだ。
 ああ面白い。
 楽しんでいるのだと自分に言い聞かせる。
 ナイフのように切れ味の鋭い彼女の視線。
 強固な盾のように結ばれ決して開かないその口元。
 どんなに鋭いナイフでも、突き立てられなければ意味はない。ぎりぎりまで踏み出せない彼女の弱さ。
 どんなに固い盾でも、一生閉じこもっていられるわけもない。ぎりぎりまで踏みとどまる彼女の強さ。
 ああ面白い。
 見つめられて喜んでいるなんて、彼はまだ認めていない。
 それでも視線の切っ先を、彼は今日も彼女と奪い合う。  

please,look me only…..

******Post Script******
念のため申しあげておきますが、コレはシゲ麻衣です。麻衣子お嬢様の寵愛を奪い合うシゲと有希の図。
もっとも有希はそんなもんいらんと思ってることでしょうが。
まさか・・・シゲ有希だと思われた方、いらっしゃいます? なんか誤解されそうな文章だもんなぁ・・・。