「明日…ですか」
問われたミランダはぱちぱちと目を瞬き、ティキを見返す。
「そう。ミランダ、何したい?」
あながち仮定の話でもない。けれどそれはティキの胸の内だけの秘密だ。
ミランダ自身も仕事としてわりとその秘密の近くにいるはずなのだが、彼女自身はそのことについてあんまり深く考えて無さげだ。
異能の力があって、その使いどころがあって、同じ力と目的を持つ仲間がいて。
彼女の世界は概ねそれで完結している。
目的の行き着く先に何があるのか、わかっているのかいないのか。
少なくともティキは、仮定の話でもその点について悩んでいる彼女を見たことがない。
だから、聞いてみた。
「明日世界が終わるとしたら、ミランダはそれまで何していたい?」
多分、そんな仮定を実現できる者がいるとしたらそれは彼女の敵、すなわち自分たちである可能性がいちばん高い。
まがりなりにもエクソシスト、世界に数人しかいない選ばれたる(偽りの)神の使徒として、彼女はその来るべき日に何をするべきなのか。
それはもう答えは明々白々なのだろうけども。
それでも今目の前で、吹きガラスのような瞳を瞬かせティキの問いかけにうんうんうなっている姿を見る限りでは、最後の日に、最後まで抵抗を続けるべき人間としての自覚はまったくうかがえなかった。
「それは、もう決まっちゃったことなんでしょうか」
仮定の話、だというのにミランダは真剣に聞き返す。
「うん、そう」
もちろん仮定の話、としてティキは断定する。
「明日」
「そうそう」
まだぴんとこない様子の彼女に、少し具体的な例えを加えてやる。
「例えばね、明日、大きな洪水が起こって」
遠い過去に起こったこととして、彼のメモリーにある世界の終末の絵。
「ぜーんぶね、流されちゃうの。人も獣も溺れて死ぬ。そんでなーんにも残らないの」
彼と、彼の選んだ者以外には。何も残らない。残らなかった。
「つまり今日が最後の日なんですね」
けれどそんな他人からみれば突拍子もない例え話のおかげで、ようやくミランダにはこれが彼がよくやる言葉遊びの一環だと解したようだった。
「うん? うん、そうだね。明日には終わっちゃうから」
どうしたい?と彼は問う。言葉遊びの模様の中に真意を織り込む、いつものやりかたで。
「いっしょにいたいです。ティキさんと」
それは仮定の話として。
それでも迷わず真摯にミランダは答える。
「いっしょに」
鸚鵡返しに聞き返して、ティキは笑う。
もしも明日世界が終わるなら、終わらせるのは多分自分たちで。
それに抗うために彼女は彼らの前に立つのだろうけど。
何をしていたいかと問われていっしょにいたいと言ったミランダの言葉は嘘ではない。
願いはいつだって叶わない、ミランダはいつもそう言うから、きっとそれが叶わないと知っていても嘘ではない。
「うん、多分それは叶えてあげられると思うよ」
最後の日、彼女の前に立つ自分を想像して、彼は優しく笑う。
ティキの言葉はミランダと違って大抵嘘だけど、彼女の最後の日の望みだけは叶えてやろうと彼は思う。