01.さようならが今日でした

[ホイッスル!] 水ユキ

 

  あっけらかんと別れるには名残惜しすぎるけど、またねと約束できるほど確かなものは何もない。
 でも追いかけるものは同じだからきっとどこかで。
「・・・じゃあ」
「うん」
 ぼん、と軽くはずみをつけるみたいに、頭に掌が置かれて。
 最後の部室を出て行く彼の背中は、多分それでふっきれたつもりでいる。
 一瞬だけ、薄暗い部屋に射し込んだ光は、無情な音とともにまた閉ざされた。
 夢よりも不確かな何かを諦めなさいと諭すように。
 一瞬だけ、くっきりと輪郭を映した影ももう見えない。
 頭を上げて、眼をそらした。
 
「・・・負けないんだから」
 これからだってそう、多分、こんな思いはいくらも抱える。
 見えないゴールの行方を探して、探して。
 走り続けるその道に、彼の姿がもう存在しなくても。
 負けるものかと言い聞かせて、進み続けるしかないのだ。
 こんなハンデを嘆いている場合じゃない。
 
 それでもきっと。
 掌一つ分、自分の重荷を彼女に背負わせたずるい男のことは絶対に忘れない。
 迷いのない未来図を手にして光の中を歩いていく彼が、いつか自分と同じこの痛みをどこかで抱えてくれればいい。
 それが彼女のためでなくても。
 
 さようならと深く、心に刻んだその日。
 未来図のかわりに、ボタンが一つ。

 

 

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