02.抱きしめるその時の、悲しい感じ

[ホイッスル! シゲ×麻衣子]

 

  あんまり触れあったり抱きしめたりするのが、好きな人じゃないんだと思う。
 ふざけて一瞬だけ肩に触れたり。髪をひっぱったり、額をつついてみたり。
 リフティングを教えてもらっている時などに姿勢を直すのに腕や背中に触れたりすることはよくあった。そういうことにはこだわらない人だ。
 ただ、長時間触れられているのは嫌がっている。そんなふうに感じることはよくあった。
 たとえば歩くとき、手をつないだり腕をくんだり、そういう世間一般の恋人たちがやるようなことはしなかった。そういうことを避けるように、彼の両手はよく、歩いている時でも頭の後ろに組まれていた。降参、のポーズに似ていなくもない。
 だからかまわんといて、頼むから。
 そう言われているような気が、時々、した。
 
 だから彼が自分から抱きついてくる時は、よほど傷ついて弱っている時に限られた。
 逃げ場所を探すように、否、すがりつく藁を求めるように、体全体を預けてくる時は。
 何があったのかなどと聞くことも出来ない。
 聞かないでくれと全身で訴えているのがありありと分かる。
 こういうときは諦めて受け入れるしかない。
 やせ我慢をしなくなっただけマシなのだ。
 触ったくらいで心の中が見透かされるなんて、本気で信じているのだろうか。
 でも何故か、彼はそう思っているようだ。
 だからわかってほしいときは黙って抱きついてくるのだろう。
 
 どうしたの、なんてだから聞かない。
 気づかぬふりだけ、しておくことにする。
 
「・・・昔な」
 ぽつり、とつぶやいたのは多分今の彼の痛みとはまったく関係のない話。
 わかってほしいくせに、口を割らない男の精一杯の伝心。
「お嬢の、背中がな、船の帆みたいやて思うたん」
「帆?」
 たとえ話なんてされても裏の意味を探る何て芸当できるはずないと、彼は知っている。
 そんな聡い自分だったら、この男はもしもの話すらしないだろう。
「うん」
「じゃあ風がなかったら走れないわね」
 彼の真意はこの際無視だった。謎かけの解答を出すつもりなどさらさらない。ただ思ったことを口にしただけ。
 それでもふと、預けてくる重みが減った気がした。
「・・・せやな」
 わずかでも、風が吹けば帆ははためいて、少しずつでも進んでいく。
 少し離れた体に、安堵とともに感じるのは一抹の淋しさ。

 

 

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