07.ただ黙ってみつめあうことの奇跡  それから という嘘 / もう二度と迷わないという約束  それなら という嘘

[リム―ブカ―ス 悟×夏菜]

 忘れないと誓った思いは、嘘ではない。けれど抗えない法則で世界は動く。
 例えば、りんごが木から落ちること。例えば、陽がのぼりやがて沈むこと。例えば、波が寄せて返すこと。そして人が、夢を見ること。
 何度も巡りあって、何度も言葉を交わして、誓いあった想いは確かに存在していたけれど、その証すらちゃんと残っているけれど。
 
 
「だけど、お前はまた忘れちまうんだよなぁ……」
 膝の上に夏菜を乗せて、黒い男はつぶやいた。
 こういう時の彼は、何を言っても無駄だと彼女にはわかっていた。
 何をどう言ったところで、彼の中に刻み付けられてきたものを共有することはできないのだ。前世のことなど思い出せるはずもないのだから。
 ずっと、なんて絶対に言えないの。
 それでもずっと、忘れないと思う。
 ―――生きている、限りは。
「だから、嘘になるんだね……」
 あたしがどんなに、今、あなたの傍にいても。
 今のあたしに誓えるのは、今のことだけで。
「それでもね、あたし、またちゃんと生まれ変わるから」
「ああ」
「だから、見つけてね。見つけてほしいって思ってるから。今のあたしは、そう思ってるから」
 今のこの一瞬がどれほどの奇跡なのか、あたしはちゃんと覚えておこう。
 残酷な神のルールがあたしたちを引き離しても、あたしはこの人に巡り会った。

 
 

「あなたはちゃんと、奇跡を起こしてくれたから、今度はあたしが答える番なんだよね」
「奇跡?」
「うん。いつかきっとね」
 どれほど過去を積み上げてもかなわないような奇跡を貴方にあげよう。
 それはなんだと問われても今は答えられないけど。彼女にとって人生はまだまだ長いし、彼のそれはといえば終わりなどないも同然だ。
「だから、楽しみにしててね。あたしが何か起こすの、楽しみに待ってて」
「…………へえ」
「嘘じゃないよ。例えあたしが生きてるうちがダメだったとしても、もっと先ならわかんないよ。だから目を離しちゃダメだよ」
 意気込んで自信たっぷりの彼女に、彼は苦笑している。もしかしたら同じようなことをかつての彼女が言ったのかもしれない。でもそれだったらそれで、嘘はついてないってことになる。オールオッケーだ。
「そのうち、空を落とすかもしれないし、星を壊しちゃうかもしれない。でもそれはすべて悟のためだからね。悟がちゃんと見ててくれないとダメだよ」
 どれほど長く生きても絶対に貴方を飽きさせたりしないから。
 もっと未来をわくわくして待っていようね。
 期限つきでさえなければ、どんな約束も嘘にはならない。
 承知の上で騙される夢を、いっしょに見ようと、彼女は笑った。
 世界の法則は神様が決めても、人の奇跡は人にしか起こせない。

 

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