優雅に非日常

 非日常。それは、毎日繰り返される行動や、リズムからかけ離れた出来事のことを言う。
 人々にとって非日常である、魔族事件。それを解決する事が仕事であるネリンにとって、それは日常だと言えるかもしれない。
 そんなネリンにとって、この日の出来事は非日常であった。
   

 

 歩きなれた道をネリンは一人歩く。いつもの制服姿。違う所といえば、自慢の髪を飾るようにとめられている、髪留めくらいだろう。
 本日は冬だというのに見事な快晴。そのため、温度は低いのだが、空から降り注ぐ太陽のおかげで、寒さを感じることはなかった。
 いつものように流れていく風景。初めは、迷わないように歩いていたこの道も、もはや一年間週に1~2度近く訪れていると、
 意識を無くしても歩けてしまう。温かい陽射しに眠気を誘われながら、目的地へと向かうネリン。あと、5分くらいで着くなと頭で計算する。
 それからまもなくして、ネリンの予測通り目的地を確認する。
 今ではもう親しみさえ覚えてしまう一軒家がそこに建っていた。

 レイオットと、カペルテータに出会ってから約1年。
 週に1度、時には3日に一度実施している「レイオット・スタインバーグ真人間化計画」だが、まだ効果のほどはでていない。それでもこりないネリンは、「気長にいくか」と最近考え始めるようになっていた。
 レイオットや、カペルという人間と親しくなったせいか、レイオットに資格を取らせて「はい、終わり」という問題ではない事がわかったからだ。
 彼が無資格なのにも、きっとそれなりの理由があるのだろうとネリンは思っている。
 カペルにしても、レイオットから引き離す事が最適だとはいえない。
 だから、ネリンは時間をかけていこうと考える。
 何より、ネリン自体ここに来る事は苦ではなく、むしろ楽しいと思い始めたのだから。
 いつものようにスタインバーグ邸のベルを鳴らすと、いつものようにカペルが出迎えてくれた。
「こんにちは、シモンズ監督官。」
「こんにちは、カペちゃん。」
 無表情に言うカペルとは対照的に、ニコリと微笑みながら言うネリン。そして、中へと入る。
「今日はいい天気ね。」
「そうですね。」
 いつものように居間への通路を歩きながら、そんな会話をする。
 相変わらず、無表情に言葉少ないカペルであるが、ネリンは気に止めることはしなかった。
 そして、目的の場である居間に到着したその時、そこにはいつもとは違う光景があった。
 部屋の内装はいつもと一緒。庭も、家具も何も変わってはいない。しかし、そこにはあきらかにいつもとは全く違うものがあった。
「ス、スタインバーグさん…いったい何をしているんですか?」
 呆然と指を指しながら言うネリンの目の前に、何故かタキシード姿のレイオットがいた。




「シモンズ監督官…来てたのか。」
 脱力しながら言うレイオット。どうやらこの姿を見られたくなかったようだ。それもそうだ。
 どこかのパーティー会場で、鉢合わせたとか言うのなら、まだ格好がつくが、特にこの姿でいる違和感の際立つ、自宅の居間で鉢合わせなんて、恥ずかしい以外の何者でもないだろう。
「これは一体どうゆう…。あ、どこかのパーティーにお出かけになるとか?」
 レイオットのあまりにも非日常の姿を、どうにか理由をつけて自分の中で処理しようとするネリン。
「外れ。」
 しかし、ネリンの期待に反してそんな言葉が返ってくる。その言葉でみるみるネリンの顔色が青くなっていった。
「そ、そんな、まさかスタインバーグさんがナルシストだったなんて!!」
 ネリンの唐突の叫びに、思わずレイオットもこけた。
「ちょ、ちょっと待て!どうしてそういう解釈になるんだ!」
「だって、自宅で用もないのにタキシード着るなんて、それ以外に考えられないじゃないですか!
 あ、もしかしてスタインバーグさん、毎日鏡の前で全裸になってポーズをとってたりするんですか?」
「シモンズ監督官…」
 何だか、変な事を想像しているネリン。そんなネリンにかける言葉が、レイオットには思いつかなかった。
「スタインバーグさん、自分を好きになるのはいいことですよ。私は嬉しい位ですよ。」
 そう言って、思わず口元を抑えるネリン。相当自分の想像がツボにはまったらしい。いってる事とやってる事が違うネリン。
 思いっきり肩を動かしながら衝動的な笑いを抑えようとしている。
 当然、抑えきる事はできていないが、それでもまだ奮闘している。
「シモンズ監督官…。頼むからその逞しい創造力を発揮する前に、俺の話しを聞いてくれ。」
 額に手を当てて言うレイオット。そんなレイオットに助け舟となるべく、本日の元凶が姿を表した。
「あら、シモンズさん。こんにちは。」
 必死に笑いを抑えようとしていた(していただけで、実際できていないが)ネリンに、朗らかに声をかける一人の女性。
 ネリンは、その声で顔を上げた。そして、驚きの声を発する。


「フィリシスさん。どうしてここに?」
 そう、そこにいたのは、フィリシス・ムーグ戦術魔法士だった。
 さっきまでこみ上げていた笑いはどこへやら、今度は驚きがネリンを支配する。
「私?ああ、私はこのタキシードをレイに届けに来たのよ。」
 当然のことのようにサラッと言うフィリシス。
 しかし、ネリンにはどうしてフィリシスが、レイオットにタキシードを届けにくるのか全く理解できない。
「どうしてタキシードを?」
 フィリシスの言葉の意味がよくわからず、ネリンは問い返す。
「このタキシードは、私のファンの人から貰ったんだけどね、父もこういうのはたくさん持ってるし、かといって捨てるのも後味悪いから、レイに持ってきて、サイズが合うかどうか今着せてみてた所。」
「まあ、言い方を変えればやっかい払いだな。」
「そうともいうね。」
 めんどくさそうに言うレイオットの皮肉を、見事にサラッと流すフィリシス。
 さすがというべきだろう。
「なるほど、だからスタインバーグさんが、タキシードをこんな所で着ているわけですね。」
 納得したように言うネリン。
 少し胸をなでおろしたが、レイオットがナルシストならからかいがいがあったのに、と少々残念にも思う。
「うん、まあそう言うこと。あ、本当のこと言わなかった方が面白かったかな。」
 無慈悲なセリフをはくフィリシス。
「俺はこんな物貰っても嬉しくないぞ。何より、使い道がない。」
 着慣れぬものを着たせいか、凝った肩を回すレイオット。
「そんなのわからないよ。いつ必要になるかわからないんだから、一着くらいもってたって、無駄にはならないさ。」
「そんなもんかね。」
 肩をすくめてレイオットが言う。
「いいじゃないですか、スタインバーグさん。人の好意は素直に受け取るべきですよ。」
 そう笑顔でネリンに言われては、レイオットも強引には断れない。こいつ、確信犯なんじゃ…とも思ったが、表情から読み取って、ネリンにはその気は全くないようだ。
「あーはいはい、わかったよ。フィリシス、もういいだろう?脱いでも。」
 小さなため息と共に、上着を脱ごうとするレイオット。
 しかし、フィリシスからOKの言葉はでなかった。
「待った。実は、カペルテータちゃんにも持ってきてるんだ。だから、サイズの確認は、面倒くさいから、二人いっぺんにやる。」
 そういって、フィリシスは淡い赤色のドレスを取り出した。そのドレスが、それなりの値段がする事は見ただけでわかる。
 レースがついているが、うるさすぎず、可憐なイメージのするドレスだった。それを持って、カペルの元へと歩いていく。
「私に?」
 カペルがフィリシスに問い掛ける。
「うん、そう。私のお古になるけど、大丈夫、袖は一度も通してないから。新品だよ。」
「ですが、私には使い道がありませんが。」
 レイオットと同じ返答を返すカペル。
「ああ、そんなの関係ないない。一着でも持ってるだけで、なんか嬉しい気分にならない?」
 そんなフィリシスの言葉に、カペルは首を傾げる。
「まあ、とにかく受け取って。」
 強引にカペルに押し付けるフィリシス。そのドレスをもったまま、カペルはレイオットに困ったように視線を向けた。
 その視線にこれまた困ったような顔をするレイオット。その困った顔をレイオットはネリンに向ける。
 「どうしたらいいんだ?」レイオットの顔が、大いにそう語っていた。その視線に、ネリンは苦笑する。
「良かったね、カペちゃん。こんなドレス、なかなか手に入らないよ。カペちゃんも女の子なんだから、貰っておいたら?
いつ使う時がくるかもしれないし、一着くらい、いいと思うよ。」
 ネリンの言葉に、カペルは視線をドレスへと移す。ネリンの言葉がわからなかったわけではない。
 世の中何が起こるかわからないから、確かに一着くらい持っていたほうがいいのかもしれない。
 そう考えても見るが、やはり、自分には無用の長物のように思えてならなかった。
 しかし、レイオットの言葉で、カペルは受け取らざる得なくなる。
「貰っとけ。シモンズ嬢の言う通り、人の好意は素直に受けないとな。」
 少々ぶっきらぼうな言い方なのは、この言葉で自分も今着ているタキシードを受け取らざる得なくなったからだ。
 しかし、やはり女の子であるカペルの事を考えると、きっとネリンのいう事の方が正しいのであろう。
「…はい。」
 レイオットの言葉に、渋々首を縦に振るカペル。どうやら、まだ戸惑っているようだ。
 そんなカペルを完全に無視して、フィリシスは次の行動へとうつった。
「じゃあ、早速サイズをあわせるために、隣の部屋で着替えよう。」
 そういうと、カペルの腕を引っ張り、居間を出て行ってしまった。

 取り残された、レイオットと、ネリンは呆然と立ち尽くす。
「なんなんだ、一体。」
 慌しげに出て行った、フィリシスと、カペルを見つめて呟くレイオット。
「まあまあ、いいじゃないですか。カペちゃんのドレス姿、きっと可愛いですよ。」
 怪訝な顔で言うレイオットに対して、ネリンの朗らかな声。
 そんなたわいない会話をしながら、ふと、改めてネリンを見つめて、はたっと気がつくレイオット。
「今日は、髪型が違うんだな。」
 いつも髪を全部下ろしているネリンだが、今日は横の髪を後頭部で、バレッタで束ねている。
 そのためか、いつもにもまして童顔が目立つような気がする。
 確か、母親譲りの自慢の髪だから、あまり髪型は変えないと言っていた記憶があるのだが。
 そんなレイオットの不意の質問に、ネリンは後頭部へと手をやった。
「ああ、これですか。このバレッタを貰ったので、たまには髪型を変えてみようかと思いまして。」
 にこやかに話すネリン。
「貰った?」
 反対に怪訝そうに問い返すレイオット。別にそんな顔をして、聞くような質問でもないのだが。
「ええ。いつもお世話になってるからって、エリック君から。」
 その言葉に一瞬レイオットはピクリと反応する。先日のライバル宣言を思い出したレイオット。
 何故か先を越されたような気分になる。
「なかなか似合ってるじゃないか。」
 嫉妬にも似た感情が湧きあがってくる。そのため、少々声のトーンが下がるのは否めない。
 しかし、そんなレイオットの心情には気づかずに、ネリンは少々顔が赤くなる。
 こういう風に面と向かって誉められるのは、慣れていないのだ。
「そ、そういうスタインバーグさんこそ、そのタキシードお似合いですよ。」
 ネリンがドモルのは、レイオットに誉められて動揺しているからである。
 話を逸らそうと、レイオットにその話を振ってみたはいいが、そこで改めてレイオットを見直す。
 いつもだらしなく肩まで伸びた髪は、一つに束ねており、いつもの丸めがねもかけてはいない。
 背も高く、筋肉も着いているため、はっきり言って、非常に似合っていた。
 そう、つまりかっこいいのだ。
 もともと顔の造りは端正なので、いつものだらしなさを強調していためがねと、髪をきちんとしただけで、ここまでかっこよくなるとは思ってもいなかった。
 突然、ネリンの胸の鼓動が大きくなる。
「そうか?」
 一度、自らの服装を一通りみて、レイオットがいった。
 レイオットは、自分の姿をまだ鏡で見ていないので、自分がどういう風になっているのかわかっていない。でも、ま、悪い気はしない。
「これは、ひとまずありがとうと、言うべきなのかな。」
 レイオットが、苦笑しながらネリンに言う。
 しかし、ネリンの様子がおかしい。先程から、ボーっとしている。
「シモンズ監督官?」
「は、はい!何でしょうか。」
「どうしたんだ?」
 そう言われて戸惑うネリン。本当に自分の考えが良くわからない。これは、属に言う「見惚れる」という行為になるのだろうか。
 いや、しかし別にタキシードを着ているからどうだというのだ。
 頭では分かっているのだが、なにか非常に大きな発見をしたような気がしてならない。
「いえ、ただ、スタインバーグさんも男だったんだなーっと思って…」
 ぼそっと呟く。しかし、この呟きこそ、今のネリンの心情そのままであった。
「それはつまり、今まで俺を男としてみていなかったという事かな?シモンズ監督官。」
「そう言うことになるんでしょうか、やっぱり。」
 大きな脱力感がレイオットを襲う。
「あ、すみません。失礼でしたよね、こんな言い方。」
 慌てて言いつくろうネリン。
 そんなネリンを見てレイオットの心にいたずら心というか、復讐心のようなものが浮かぶ。
 エリックのプレゼントを身に付けるネリン、そして今まで自分のことを男としてみていなかったネリン。彼女に制裁を…
「ああ、確かに失礼だな。シモンズ監督官、俺は非常に心が傷ついたよ。」
 これを面倒くさそうに言われたら、ネリンも素直にごめんなさいといえただろうが、なぜかレイオットの口元には微笑が浮かんでいた。
 別にレイオットは、今武器は持っていないし、戦闘態勢に入っているわけではないが、何故か危険を察知するネリン。
「ス、スタインバーグさん?」
 後ずさりしながら問い掛けるネリン。
「シモンズ監督官、慰謝料を払ってくれてもいいんじゃないか?」
 どんどん後ずさりしていくネリンに、迫るように言うレイオット。
「ですから、先程から謝ってるじゃないですか。」
「それでも、許せる事じゃないよな。男として今のセリフがどれほど痛いか。」
 変な気迫がこもっているレイオットの瞳。それを見つめながら、ネリンの中の危険信号が、強くなる。
「い、慰謝料ですか。」
「そう。」
 その間にも、ネリンはどんどん後ろへと下がっていく。
 はたからみれば、レイオットがネリンに迫っているようにしか見えないだろう。
「で、でもそんなお金、私に払えるかどうか…」
 そこで、非情にもネリンの背中がドンと、壁にぶつかる。
 どうやら、知らぬうちに壁側に追いやられていたようだ。
 そして、そのままレイオットは壁に手をつく。つまり、ネリンを壁ではさみ、そして、壁に手をつくことにより、逃げられなくしているのだ。よくドラマなどで見られる、男性が女性に迫る時に良く使う手である。
 目の前はレイオットの胸板。視線を上げれば至近距離にあるレイオットの顔。動悸が激しくなっているのがわかる。
 しかし、逃げようにも、通り道はふさがれているし、無理矢理逃げようとして、逃げる事ができるような雰囲気でもなかった。

(ああ、後ずさりなんかするんじゃなかった)

 そう思っても、今の状態が変わる事もなく、ネリンの思惑通り嫌な方向へと話しが行く。
「誰も、金で払えとはいってないぞ。」
 普段鈍感だが、状況が状況だ。さすがのネリンも、そこまで言われて気づかないはずはない。
 しかし、自らそれを確かめるには怖すぎた。
「じゃあ、一体何で払えばいいんですか?あ、わかった食事をおごるとか?」
 極力、自分の予想している状況から遠ざかるような話しを振る。
「残念、はずれ。」
 微笑したまま答えるレイオット。普段こんな表情をしないので余計に怖い。
「じゃあ、無料で家の掃除をするとか。」
「それはシェリングさんがやってくれる。」
「じゃあ、カペちゃんの家庭教師とか?」
「それも外れだな。むしろ俺の家庭教師になって欲しいくらいだ。」
 なんだか意味深な発言。しかし、こんな時に限ってネリンの鈍感さが炸裂してしまった。
「え?何の家庭教師です?スタインバーグさん何かわからない事があるんですか?私で教えられる事ならお教えしますけど。」
 ああ、哀れ鈍感娘。そう思わずにはいられないほど、拍子抜けする言葉。思わずレイオットは脱力する。

(普通気づくだろう…)

 しかし、これは制裁なのだ。そう言い聞かせて、脱力した体にもう一度カツをいれる。
「俺の分からないことか…もちろんシモンズ監督官には十分教えられる事だ。まあ、何より俺は、シモンズ監督官にしか教えてもらう気はないがな。教えてほしいか?」
 そういわれると思わず言葉がつまる。なんか目が怖いんですけど…そう胸中で呟くネリン。
この先は聞いてはいけないような気がする。
「いや、やっぱり遠慮しておきます。」
「ほう、シモンズ監督官は嘘をつくのか。」
「どうして嘘になるんですか!」
 いきなり嘘つき呼ばわりされてかっとなるネリン。
「今、教えられる事があるのなら教えると言っただろう?なのに、肝心なことを聞かないんじゃ、結局教えないのと一緒じゃないのか?」
 挑発するようなレイオット口ぶり。こんなの軽く流せばいいのだ。そうすれば、レイオットもひつこく食い下がることはしない。
 しかし、これが仕事場ならまだしも、プライベートにも近いこの場で、嘘つき呼ばわりされてまで平静でいられるほど、
ネリンも大人ではなかった。
「わ、わかりました。じゃあ、スタインバーグさんのわからない事を教えればいんですね。」
「ほう、承諾してくれるのか。」
「え、ええ。」
 何を教えれば良いのか全く予測できないが、とりあえずそう言ってみる。
「なるほど。じゃあ、これからシモンズ嬢が来る日は、ベッドを綺麗にして待っていないとな。
 ああ、それに毎回泊まりになるから、それなりに準備してきたほうがいいぞ。」
 いまだにネリンを、壁と自分ではさみながら、わざわざネリンに顔を近づけて言うレイオット。
「ス、スタインバーグさん、それはどういう…」
 ネリンの体から冷や汗がでる。そして後悔する。
 売り言葉に買い言葉であんな事をいうんじゃなかったと。ネリンの予想が正しければ、レイオットの要求とは…
「シモンズ監督官が、ベッドの中の家庭教師になってくれるんだろ?」
「べッッッ!」
 どうやらベッドといいたいらしい。相手の要求をきちんと聞いてから判断するべきだった。
 ベッドの中の家庭教師。どこぞのラブホテルの名前のような言葉だが、それが意味する事は肉体関係を迫られているという事だ。
「スタインバーグさん、冗談ですよね?」
「さあな。」
 ネリンの体を冷や汗が流れ落ちていく。どうやったらこの状況を潜り抜ける事ができるだろうか。
 必死に考えをまとめようとするが、何故かどんどん近づいてくるレイオットの顔がそれを邪魔する。
「とりあえず今日の授業は、ここでやってもらうからな…ネリン。」
 ネリンの耳元で呟くレイオット。今まで聞いた事が無い、甘い声に、目を見開くネリン。
 ネリンの耳元にあった顔を、もう一度ネリンの前まで持ってくると、少しずつ顔をネリンの顔へと近づかせていく。
 ネリンは、動けなかった。自分の体が自分の体じゃないようにいう事を聞かない。
 心臓が、すごくうるさくて、考えをまとめる事もできない。その隙にレイオットは、有無を言わさず近づいてくる。
 思わずぎゅっと目を閉じるネリン。次に来るであろう、口付けに身構える。

 ぎゅっと目を閉じてから多分、数十秒立っているが、一向にレイオットが口付けをしてくる気配がない。
 ネリンが、そーっと瞳を開けると、床にうずくまって肩を震わせ、必死に笑いを堪えているレイオットの姿があった。
 ネリンはいまいち現状を把握できずに、その光景を傍観する。
 しかし、レイオットから離れたのもあり、やっと落ち着いてきて、そこで初めてレイオットの笑いの原因に気づく。
「スタインバーグさん、からかいましたね!!!」
 一気に顔に血液が集中し、真っ赤になるネリン。
 それはユデダコのようで、その顔がレイオットの笑いをさらに誘った。
 今だ笑いの衝動から解き放たれないのか、レイオットはまだ口元を抑えながら立ち上がる。
「いや、悪い悪い。」
 謝罪の言葉を口にしてみるも、必死に笑いを堪えた引きつり顔で言われると、誠意のみじんも感じられない。
「スタインバーグさん!!」
 それに対抗するようにネリンが叫ぶが、未だ顔が真っ赤だ。
 相当恥ずかしかったようで、耳まで真っ赤なのだが、その姿がネリンらしくて可愛いと少し思ってしまうのは、レイオットだけだろうか。
 努力のかいあり、やっと笑いが治まったレイオットは、気を取り直してネリンへと向き直る。
「ひどいじゃないですか、スタインバーグさん。」
 少々怒気をはらんだネリンの声。
「悪かったな。ここまでする気は無かったんだが、ちょっと調子に乗ってしまった。
 それは悪かったと思うが、シモンズ監督官の言葉も、結構ひどいと思うぞ。」
 やはり少しやりすぎたと思っているのだろう。ちゃんと心のこもった謝罪だったが、それでネリンの怒りが消えるわけではない。怒りが込み上げていたネリン。しかし、レイオットの言葉で冷静になる。
 確かに無神経だったかもしれない。自分も、面と向かって、「女としてみていない」と言われたら、結構ショックだろう。
「確かに、あの発言は無神経だったと思っています。ごめんなさい。」
 謝罪の言葉と共に、頭を下げるネリン。そして再び頭を上げたネリンの顔は、挑戦的な顔だった。
「でも、あれはやりすぎです!スタインバーグさんだって、私の事女だって、思ったことないでしょう?!」
 肯定の言葉がくると思っていた。それならあいこじゃないですか!って言う気だったネリン。
 しかし、レイオットの反応は、予想とは違っていた。
「さあな。」
 そう言って意味ありげな微笑みを向けるレイオット。その表情が、ネリンの目にはひどく魅力的に映った。
 再び顔に血が上り始めるネリン。

(一体どうしたのよ!相手はスタインバーグさんよ! そう、今日はいつもよりちゃんとした格好してるから、顔が赤くなるのよ。
  そうよね、もともと顔はいいんだし。)

 なんて自分に叱咤してみるも、心の中まではコントロールできない。
 自分でもよく分からない感情が浮き上がってくる。そのせいで、密かにパニックになるネリン。
 レイオットの目には、きっと困惑しているように見えたのだろう。苦笑を一つもらす。
「フィリシスから貰ったケーキがあるから、シモンズ監督官に差し上げるよ。今日のお詫びにな。」
 そう言って、レイオットはキッチンへと足を向けた。しかし、余計な一言も忘れない。
「ああ、それからその髪飾り、これからは俺の前ではつけないように。それをつけてきたら、今日と同じ事をするからな。」
「は?それは一体どういう意味ですか?」
「さあな。自分で考えてみてくれ。」
 素っ気無くそう言うと、再びレイオットはキッチンへと向かった。
 その場に残されたネリンが、レイオットの言葉の意味を理解する事はなく。
 ただ、今回のようなことがあるのは絶対に嫌なので、言うとおりにしようとだけ心に誓った。
 そして、力なくソファに腰をおろすと、意味なく体が疲れている事に気づく。背もたれに体を預けて、まだ赤い顔を天井へと向けて一言。
「疲れた…」
 
 
 
 
 キッチンで、人数分の紅茶をティーカップに注ぐレイオット。
 自らの計画した復讐劇は大成功した。何より、これからネリンが、自分の前でエリックのプレゼントをつけてくることはないだろう。
 そうレイオットは核心した。
 でも、まあ少し不満をいえば、もっと人のいない時にこれをすれば良かったかな、などと不埒な事を考えてしまったりもする。ちょっと惜しかったなと。
 そんな事を考えながら、ふと、幼いライバルを思い出す。
 正直、いきなりプレゼント攻撃とは思わなかっただけに、少々焦った。しかし…
「俺を出し抜くには、まだまだ甘いな。」
 ポツリと一言。
 丁度、そのときにフィリシスの話し声が聞こえてくる。どうやら、着替えが終わったようだ。
 レイオットの、この余裕もいつまで続くものか。侮りがたいライバルに、レイオットの心は触発されていく事だろう。
 そして、今日でネリンの心中も変わり始めたのはいうまでもない。
 小さな歯車が回りだした…



<追記>
この後、ドレス姿で現れたカペルテータを見た途端、今までの疲労はどこへやら、可愛いと絶賛しまくるネリンと、いんじゃないかと肩をすくめるレイオット。
その二人の間に違和感を感じ、何かあったのではないかとめざとく察知するフィリシスの目が、キラリと輝いたのは誰も知らない。
 



ミサモンタ様より。
~~~懺悔~~~
 今回ほど馬鹿話を書いたことはありません(涙)自分の妄想に走りすぎてすみませんです…
 毎回毎回、カペルファンの皆様、カペルが本当に酷い扱いを受けていてすみません!
 出番少なすぎ…反省しています(涙)でも、私はレイネリしか書けないのよ!!!!!!
 という事で多めに見てやってください。そして、フィリシスファンの皆様もごめんなさい…
 
 そして、毎回毎回niaさん、本当にありがとうございます~本当に感謝しています!


管理人 拝
~~~マヨエルコヒツジヲスクイタマエ~~~
 懺悔は受け付けません。あしからず。墜ちるならもろともですぜミサモンタさん(爆)
 毎回毎回管理人にトリップのネタをふっていただいてありがとうございますvv
 今回はフィリシスがいい味出してますねvv
 彼女は作品上でのレイネリ推進委員長ですよね! (副委員長はジャックでお願いします)
 さぁて次はどんなネタですかーーー?@@@@     

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